京都地方裁判所 平成6年(行ウ)27号 判決
原告
城島幹夫
右訴訟代理人弁護士
腰岡實
同
服部正弘
被告
宇治市建築主事 数江祥二
被告
字治市建築審査会
右代表者会長
河邊聡
右二名訴訟代理人弁護士
小野誠之
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1(原告適格)について
1 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格につき「法律上の利益を有する者」と規定するところ、これは、当該行政処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も前記の法律上保護された利益に当たる。そして、当該行政法規が不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容、性質等を考慮して判断すべきである(最判昭和五三年三月一四日民集三二巻二号二一一頁、最判平成元年二月一七日民集四三巻二号五六頁、最判平成四年九月二二日民集四六巻六号五七一頁、最判平成四年九月二二日民集四六巻六号一〇九〇頁参照)。
2 建築基準法は、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的としており(法一条)、同法六条一項等が定める建築規制は、直接には公共の利益の増進維持を目的とするが、同時に近隣者の採光、通風、生活環境の保全、防火に寄与する限度において、近隣者の個人的利益をも保障する趣旨と解すべきである。
特に、接道義務を定めた法四三条は、公益を保護するほか、近隣者が火災等の災害時に不測の危難にさらされることのないよう、その生活上の利益をも保護している規定である。
してみれば、本来建築確認を受けられないはずの法四三条に反する建築により、火災等の災害時に不測の危難にさらされるおそれのある近隣者は、個人の法律上の利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、建築確認処分の取消を請求する原告適格を有するものである。
3 前記争いのない事実、認定事実、〔証拠略〕によると、第二土地は、本件私有通路を通らないと本件道路に出ることのできない袋地であり、本件私有通路の幅員は、二メートルに満たない狭い部分を含むものであることが認められる。右事実によると、本件私有通路が拡幅されないまま、第二土地上に建物が建築され、火災などが生じた場合には、消防車等が同建物へ至ることができず、消火活動等に支障のあることが推認され、ひいては原告所有の第一の一ないし第一の四の各土地建物が、延焼の危険にさらされること及び第一の二及び第一の四各建物に居住する前田、木村、山本の三家族の生命に危険か及ぶことが推認される。
原告は、右各土地建物上に居住する者ではないが、接道義務を定めた法四三条が、火災等の災害時に不測の危難にさらされることのない生活上の利益を保護している趣旨からすると、原告所有の右各土地建物が延焼の危険にさらされることのない利益、あるいは、賃借人である前田、木村及び山本と同人らの家族に右各建物を安全に使用収益させる利益もまた、同条の保障する法律上の利益に含まれると解するのが相当である。
よって、原告は、本件申請についての建築確認が適法になされることにつき法律上の利益を有する者として、本件処分の取消訴訟の原告適格を有するものである。
二 争点2(本件処分の手続上の瑕疵)について
1 原告は、被告建築主事は本件専用通路の存否を現地確認すべきであったと主張する。
2 そこで、被告建築主事は建築確認申請に対しいかなる審査方法をとるべき義務があるかにつき、検討する。
(一) 建築基準法は、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的として、建築物の構造耐力の安全確保に関する基準、防火、避難に関する基準、建ぺい率、容積率、高さ等の形態に関する基準等を定めている(法二章以下参照)。
そして、法六条一項は、法の右基準を遵守せしめ、法の右目的を達するため、建築主が同項各号の建築物を建築しようとする場合には、当該工事に着手する前の段階で、当該工事の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならない旨規定している。
(二) しかして、法六条八項、同法施行規則一条によれば、申請書に記載すべき建築物の敷地についてはその面積、地名地番及び指定地域の別を明らかにすることが必要とされ、申請付属図書中に付近見取図及び配置図を提出すべきものとされているが、右のほかには、格別当該建築物の敷地の登記簿謄本や地積測量図、さらには敷地に関する建築主の私法上の権限を証する書類等の提出は要求されていない。
また、法六条三項は、同項一号ないし三号に係るものにあっては申請書を受理した日から二一日以内に、同項四号に係るものにあっては申請害を受理した日から七日以内にそれぞれ審査し、規定に適合することを確認したときはその旨を申請者に通知しなければならないとしており、法六条四項は、規定に適合しないことを認めたとき、申請書の記載によっては規定に適合するかどうかを決定することができない正当な理由があるときは、それぞれその理由をつけてその旨を右期限内に申請者に通知しなければならないとしており、建築確認の審査期間が限られた短期間であることを規定している。そして、このほかに、建築主事が事実関係を調査するために関係人を審訊し、その他申請事項を調査する権限ないし義務を定めた規定は存しない。
(三) しかも、確認それ自体は、申請に係る計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する表示であって、それを受けなければ工事ができないという法的効果が付与されているものの(法六条五項)、あらゆる法分野において計画実行の免罪符を賦与するものではなく、申請者に何らかの権利が設定されるものでもない。(最判昭和五九年一〇月二六日民集三八巻一〇号一一六九頁参照。)
(四) また、前示建築基準法の目的からすると、建築行政は、建築物が法の定める基準等に反することのないように努めなければならないが、法は、その手段として、建築確認を受けない建築物の建築工事をすることができないとするにとどまらず、建築主が右工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届け出なければならず(法七条一項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事等は、届出に係る建築物及びその敷地が右の法令の規定に適合しているかどうかの検査をし(法七条二項)、適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなげればならない(法七条三項)と規定している。さらに、法令の規定に違反する建築物又は建築物の敷地については、工事施行の停止、当該建築物の除却、移転等を含む是正措置を命ずることができると規定しており(法九条一項)、違法建築物が出現した場合の事後的な是正措置を講じているのである。
(五) 右のとおり、建築確認に関する法の規定の体裁、建築確認の効果及び違法建築物に対する事後的な是正措置等を考慮すれば、建築主事は、建築確認申請の審査にあたって、提出された書類を資料として申請に係る計価が建築関係規定に適合するかどうかを形式的に審査すれば足り、申請建築物の敷地を現地調査したり、また、同土地に対する所有権、使用権の有無を調査する義務はないものというべきである。
3 これを、本件について検討するに、前示認定のとおり、本件申請の書類として提出された配置図には、本件専用通路が本件建築計画に係る計画敷地の一部として記載されているのであるから、被告建築主事は、右申請書に基づき、その計画自体が建築関係法令の規定に適合するかどうかを形式的に審査すれば足り、右申請建物の敷地を現地調査するなどして、本件専用通路が現実に存在するのか否かを調査すべき義務は認められない。
よって、被告建築主事の右義務を前提とする原告の主張は、理由がない。
三 争点3(本件処分の内容的瑕疵)について
1 原告は、本件処分について、法四三条違反の建物建築を目的とする内容に絶対不能の瑕疵があると主張する。
2 そこで検討するに、前示認定事実のとおり、本件処分がなされた当時の現況として、第二土地は袋地であり、本件道路から第二土地に至るには、幅員二メートルに満たない狭い部分を含む本件私有通賂が存在するだけであったことが認められる。
しかし、他方、争いがない事実及び前示認定事実のとおり、中路功の本件申請添付の配置図には本件建築計画に係る計画敷地の一部として幅員二メートルの本件専用通路が記載されており、右通路は本件道路と二メートルの幅で接しているため、本件建築計画が、申請書類上、法四三条を満たしていることが認められる。
3 そこで、以下、本件申請が申請書類上法四三条を満たしていた場合でも、現地の客観的状況として計画に係る敷地の一部が他の建物の敷地と重複使用されていて、本件道路と二メートルの幅で接する本件専用通路を確保することが事実上不可能と思われる場合に、本件処分は、法四三条違反の建物建築を目的とする、その内容が絶対不能の瑕疵あるものとして、違法の評価を受けるか否かにつき検討する。
(一) 前示のとおり、建築確認は、違法建築物の出現を阻止するという建築行政の一環として、建築主事が、建築物の建築工事着手前の段階で、限られた期間内において、提出された申請書類を形式的に審査することによって、申請に係る計画の建築関係法令の適合性を公権的に判断する表示であり、申請者に何らかの権利を設定するものではない。
(二) 一方、建築主は、建築確認を得た計画を実現すべく、計画敷地が他人の土地であれば着工までに取得するとか、現在は道路に接続する通路がないのであれば整備するなどすべきであり、右土地の取得、整備等ができなかった場合には、建築確認を受けた建築物を建築することができないにすぎない。
建築主が、右土地の取得、整備等ができなかったにもかかわらず、建築確認を得た適法な計画と異なり、違法な建物を建築した場合には、完了検査、是正措置命令等によって是正されるべきものとなる。敷地の接道義務である法四三条に違反する建築物に対しては、敷地が道路に法定の幅員だけ接することになるような是正措置を命ずることになり、具体的場合においてこれらの措置によって違反を解消することが客観的に不可能とみられる場合には、建築物の除却命令等がなされることとなる。
(三) 以上の点からすると、原告主張のように計画に係る敷地の一部が他の建物等の敷地と重複使用されていて、現地の客観的状況として、そのままでは道路と二メートルの幅で接する専用通路を確保することが事実上不可能と思われる場合であっても、建築主事には現地を調査すべき義務がない以上、申請に係る計画が建築関係法令に適合していれば、計画の実現可能性に関わりなく、建築主事のなした建築確認は適法である。建築主において、申請に係る敷地の確保を果たすことが事実上不可能であっても、右不可能による違法建築物の出現は事後的に是正されるべきであり、建築確認が、その内容に絶対不能の瑕疵ある場合として違法の評価を受けるものではない。
4 よって、被告建築主事が、本件建築計画について法四三条を満たしているとしてなした本件処分は、内容の実現可能性を検討するまでもなく、違法な処分に当たらない。
四 争点4(本件裁決の違法性)について
1 理由不備について
原告は、本件処分について法四三条違反の建物建築を目的とする内容不能の処分であることについて判断を求めたにもかかわらず、本件裁決は、何ら理由を付していないと主張するが、前記三戦示のとおり、本件処分の違法性を検討するに当たり、建築計画の内容の実現可能性を検討する必要はないのであるから、原告の右主張は失当である。
2 理由に違法の誤りについて
行政事件訴訟法一〇条二項は、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない」と定める。
右規定は、処分取消しの訴えと裁決取消しの訴えとが提起できる場合に、いずれにおいても原処分の違法事由(瑕疵)を主張できるとすると、判断の矛盾・低触、訴訟経済上の不都合が生じるおそれがあるため、原処分中心主義の表れとして裁決取消しの訴えにおける違法事由の主張を制限したものである。
したがって、裁決取消しの訴えにおいては、裁決の違法事由として原処分の違法事由(瑕疵)を主張することはできず、裁決固有の瑕疵を主張することができるだけである。
本件において、原告は、本件裁決の取消しを求める理由として、本件処分は、<1>申請書面を鵜呑みにしてなされたものであるという手続的瑕疵、及び、<2>その内容が法四三条違反のものであるという内容的瑕疵があるにもかかわらず、違法な誤った理由によって、本件処分に問題はない旨裁定したと主張するが、右主張は、ひっきょう本件処分の違法を理由としているに等しい。とすると、原告は、本件裁決の取消しの訴えのみならず本件処分の取消しの訴えを提起しているのであるから、行政事件訴訟法一〇条二項により、原告の右主張は失当である。
3 裁決の判断の基準時について
さらに、原告は、本件裁決時には、申請書類以外の実態や本件処分以後に明らかになった事情等の判断資料によって、本件処分が法四三条に違反する内容的瑕疵のある行政処分であることが明らかになったにもかかわらず、右事情を考慮しなかった違法があると主張する。
しかし、審査請求が、処分に対する事後審査制度の一環として位置付けられることからすると、裁決の違法判断の基準時は、処分時と解するのが相当である。
よって、本件裁決が、本件処分の違法性を判断するにつき、原処分時を基準時としたことに違法な点はなく、原告の右主張は失当である。
第四 結論
よって、原告の被告らに対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判断する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 池上尚子)